九条の下でも集団的自衛権の行使は容認されているとする憲法学者は割りと多い(大体七名ほど)

まず周知のとおり、菅官房長官が挙げた三人

百地章日本大教授

長尾一紘中央大名誉教授

西修駒沢大名誉教授

東京新聞:官房長官 合憲論学者「数ではない」 安保法案 与党、会期延長検討:政治(TOKYO Web)

 

また、テレビ朝日報道ステーションのアンケート結果から二人ほど見出せる。(※強調は引用者) (もうひとりいるようだが、名前を出していないもよう)

ある憲法解釈が妥当か否かは、憲法学者の多数決や学者の権威で決まるものではない。重要なのは結論を支える理由や根拠である。集団的自衛権の行使許容論(上記)が憲法上可能な主張であることも紹介してほしい。安全保障という高度に政治的で、また、刻々と変転する国際情勢の動きに機敏に対処しなければならない課題を、憲法解釈という枠組みで論じることの是非こそが問われるべき。70年前の憲法の文言や40年前の解釈との整合性に腐心するのは、意味ある議論ではない。「歯止め」については、それを憲法に求めるのではなく、選良である国会議員や首相・大臣の判断をもう少し信用してはどうか(それが民主主義であり、たいていの国はそうしている)。重要な決定を迫られる緊張感に耐えてこそ、民主主義は逞しくなるのではないか。

九州大学大学院法学研究院准教授・井上武史

 憲法はその対象とする国家社会が存在するからこそ存在意義があります。その国家社会が存在しなくなれば、その憲法が定める憲法秩序を維持することもできな くなります。国家の存立が脅かされる事態に対し、国家を守るために真に必要な措置であれば、それは憲法秩序を守るために必要な措置でもあり、憲法がそのよ うな措置を認めない(違憲)とすることは自己矛盾であり、あり得ないことということになります。今回の安全保障法制についても、真に国家の存立を守るため に必要な範囲に留まっている限りにおいては、違憲ではないと考えます。

大東文化大学大学院法務研究科教授・浅野善治

 

また、資料をあたったところ以下のまとめがあったので紹介しておく。二人は明確に容認と読める。

(iii)9条の下でも集団的自衛権の行使は違憲とはいえないとする説(大石眞『憲法講義Ⅰ』[2004] 52頁, 安念潤司日本国憲法における『武力の行使』の位置づけ」ジュリ1343号36頁)、さらに、(iv)9条には集団的自衛権を禁止する規定はなく、その行使の是非は政策レベルの問題とする説(村瀬信也「安全保障に関する国際法と日本法(上)」ジュリ1349号96頁)も存するが、(iv)説では憲法による規律を論じる意義は失われる(なお、(iv)説は国連憲章の下での9条の独自の意味を減殺する可能性がある)。かりに(iv)説が9条は政策を統制する「原理」と解するならば、「いったん設定された基準については、憲法の文言には格段の論拠がないとしても、なおそれを守るべき理由がある」(長谷部恭男憲法の理性』[2006]22頁)。他方、(iii)説においては、集団的自衛権の行使については憲法改正によって明文化されるべきとも主張される(大石眞「日本国憲法集団的自衛権」ジュリ1343号46頁。大沼保昭護憲改憲論」ジュリ1260号158頁。2005年の憲法調査会報告書について、浦田一郎「報告書における集団的自衛権問題」法時77巻10号56頁参照)。

(「憲法の争点」 (ジュリスト増刊 新・法律学の争点シリーズ 3)  P.62)

大石眞(京都大学大学院法学研究科教授) ※ただし憲法改正によって明文化されるべきと主張

安念潤司中央大学大学院法務研究科教授)

村瀬信也(上智大学法学部教授)

 

また、 自己の合憲・違憲の判断ではないが、最高裁違憲としないだろうという横田耕一九州大学名誉教授の見解も載せておく。(前エントリより

 なお、司法審査権をもつ裁判所は、安保条約については最高裁砂川事件判決 (一九五九年)などで、自衛隊については札幌高裁・長沼事件判決 (一九七六年)などで、安保条約や自衛隊など「国家の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性をもつ」ものについては、「一見極めて明白に違憲無 効と認められない限り司法審査権の範囲外にある」として憲法判断を回避した。このため、九条と自衛隊・安保条約の整合性の有無は国民ないし政治の判断にま かされている。この判断が維持される限り、仮に閣議決定や法律などで、『案』のごとき改正を経ることなく、集団的自衛権」の行使が合憲として容認されたときには、具体的事件に関し訴訟が提起された場合でも、裁判所は同様の判断を示すであろう。

(横田耕一「自民党改憲草案を読む」 P.71) *1

以上、大石氏と横田氏は除いておよそ七名と判断した。

もちろん、井上氏がいうように大事なのは数ではなく、考え方である。

以上

*1:細かい話だが、この本は自民党改憲草案が付録としてついているが太鼓もち本などではなく草案に対して基本、批判的に書かれている