鬼滅の刃の原作だけは読んだおじさんになったので感想を書く(ネタバレ注意)

アニメも原作も見てない超出遅れおじさんが今更ながら頑張って原作だけは読んだので自分用メモも兼ねて感想を書いておきたい。自分視点で突っ込みいれたい点が多いので辛口批評に見えるかもしれないが総評としては23巻(予定)で少年が妹を救う冒険譚を書ききった名作であると言っておきたい。

 剣士になりたいという動機が弱い

冨岡が語る理屈(鬼が妹を人間に直す方法を知ってるかも)があるが心優しい炭次郎がそれを受容する描写がないので説得力が弱い。別に鬼を殺したいわけではないのだからもっと逡巡するのでは?環境巻き込まれ型主人公といえばそれまでだが。

禰豆子

他の鬼が正気を保っているのに禰󠄀豆子だけ自我がなくなるのはなんでや・・・作者がベルセルク好きらしいのでキャスカっぽくしようとしたのかもしれんが、鱗滝から暗示をかけられるのもあいまってどうにも戦闘人形と化してる感がぬぐえない。もうちょい話せる感じにしてもっと人間の血への欲求に苦悶する描写とか入れた方が深みは増したのではないかと思う。炭次郎の血だけは吸わせるみたいな描写は僕は見たかったですね(ウフフ)。読む前の印象では枷をつける深い理由があって主人公と共闘するヒロインなのかなと思っていたのでちょっと残念ではあった。

しかしながらグロ描写は自分は好きなので鬼という特性を生かして(?)リョナ・欠損・血の描写が多かったのは素晴らしいの一言。白眉はやはり蜘蛛の鬼に糸で吊られるシーンだろう。アニメでどう表現されたかめっちゃ楽しみである。

あと無惨が死ぬと全ての鬼が死ぬというのが前提*1なんだから「無惨殺すと妹死んじゃう」という究極の選択を入れる余地もあったのかなーと、漫画読む限りでは耀哉様しか知らないっぽいし炭次郎は最後まで知らんかったということなのかね。無惨が死んだ後も愈史郎は生きてるし特に伏線としては機能しなかったもよう。

炭次郎

そういう意味では主人公の重い選択というのは刀鍛冶の里で禰󠄀豆子を助けるか里の人を助けるかの選択ぐらいしかなくて(しかもどっち選んでも正解)、あとは強くなって戦闘において最善を尽くしていれば結果オーライに進んだ感はある。「心の成長」みたいな話にしても主人公はほぼ既に人格的に完成していて、周りがそれに影響をうけて変っていくというスタイルだ。ややもすると説教臭くなるところを炭次郎の無垢さで補って嫌味を最小化し、読む側としてはストレスフリーで楽しめる構造と言えると思う。なのでそういう構造が本作の骨子ということであれば↑で挙げた「禰󠄀豆子or無惨倒す」とか、「禰󠄀豆子が人間に戻ったから剣士やめるか」みたいな選択肢はむしろ邪魔なものになると考えると納得できる。(個人的には悩める主人公の方が好きだが、良し悪しというより作品のスタイルの問題だと思う)

善逸

大体の宣伝イラストでは目をつぶって居合の構えだったので、てっきり「あーこいつは知的でライバル的なクールなやつでは?」と思っていたらクソうるさいやつだったので個人的には一番がっかり感がでかかった。多少うるさいのはいいけど正直人格破綻の域に感じた。禰󠄀豆子が入ってる箱を身を挺して守るのは熱いは熱いがどうにも取ってつけた感がぬぐえない。寝たら強いというのも古臭いギミックだと思うし、扱いも難しいから、本来は炭次郎と共に強くなってという展開が予定されていた気がするが、後半に行くにつれてフェードアウト気味で最後に申し訳程度に獪岳倒させたという流れだったのもやむなしといったところだろう。

あと基本セクハラ野郎なのに女性人気が高いのが謎。母性本能くすぐる感じ?禰󠄀豆子見た後に一目ぼれで改心とかならまだ擁護できるが全然変わらないし、アニメ版の出来がそのうざさを感じさせないのかね?

伊之助

顔を隠してるキャラというのは大体コンプレックスとか隠す理由とかサイドストーリーがあるものだが、あっさり被り物が取れて、顔に文句あるのかぐらいは言うが特に気にする様子もないのは拍子抜け感があった。ただ育ててくれた猪の剥製らしいので隠すというよりかは形見を頭に乗せているというレベルなのだろう。周りの人たちの温かさ(=ホワホワ)によってどんどん人間味がでてくるというのはベタだけどいい流れだったと思う。最終戦ではどこかで覚醒した感じで被り物取れてもよかったのかなと思う。

耀哉様

亡くなった隊員の墓参り毎日するくらいなら最終選別でもっと死なないようにしてあげて・・・まあ最終選別の設定が過狩り狩りから持ってきただけで後から整合性持たせるのは放棄してる感じなんで目を瞑るしかないかな^^;

 キャラデザとか

炭次郎・禰󠄀豆子・善逸・伊之助のキャラデザはピカ一。見るだけで世界観が伝わってくるセンスは凄い。柱もそれぞれ個性的だが、さすがに9人は多すぎない?後半は柱と上弦のエピソード消化でいっぱいいっぱいで上の炭次郎以外の3人はちょっと影が薄くなった感が否めない。四天王とまでは言わないが義勇・無一郎・蛇柱あたりは2人か義勇一人に絞ってもよかったんじゃないかなーと。(まあ後講釈だけど。)

義勇さんは立ち位置的にメインの一人のはずだが炭次郎が完成しすぎちゃってるので兄貴面させてもらえず逆に諭されるという始末。(錆兎のエピソードはまだ引っ張るの!?って思っちゃった。ごめんね><)キャラもブレ気味で初対面で「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」からの饒舌説教しれてくれたのに口下手設定は無理がないか?「おはぎ持っていこう」も無一郎なら言いそうだがもう誰この人って感じ。炭次郎に諭されるシーンのために病みキャラにさせられたなぁという印象。

あと、しのぶーカナヲーアオイあたりはちょっと似ているので見分けるのに一瞬時間がいるのがややストレスだった。それぞれキャラは立っているがしのぶが一番派手な分、カナヲが地味でかわいそう。

蝶屋敷の三人娘

目が点で書かれているのがなんというかザワザワする。個人の主観だが、一般的な男作者であれば女の子は隙あらばとにかく可愛く書くという姿勢に対して、ずっと目が点で押し切っているので女作者ならではだなぁと思うのと同時に脇役の描写が雑なのは一般人を軽んじてる感じがして残念であった。198話の扉絵でアオイと共に祈っているコマがあるがシリアス調ではあるが目を瞑っているので白目を書くことから逃げ切った感がある。邪推だが作者の自意識がここらへんのキャラにあって控えめに書いているというのがある意味前向きな解釈かもしれないが、同一作品で女の子の容姿描写に差があるのは差別とまでは言わないがかわいそうと思ってしまう。ちびまる子ちゃんのミギワさんやペルソナ4の大谷、かぐや姫の物語に出てくる捨丸の妻などが思い出される。一話で当時は同年代と思われる禰󠄀豆子やもっとちいさい妹はしっかり書いているのだから書けばいいのにと思う。蝶屋敷編自体がギャグパートの扱いということなんだろうが緩みすぎの印象。締めるところは締めて欲しい。

ブスをネタにされても・・・

同じようなネタは他にもあって、4巻末にもしも男女が逆だったらとしてメインの4人が書かれる4コマがあるが炭次郎だけ炭子としてブスに書かれている。笑いとして面白い面白くない以前に戸惑いを覚える。別にPC的に容姿を笑ってはいけないとか思っているわけではないが、一種露悪的であって少なくとも鬼滅という作品にはそぐわなかったのではないか?

ともかく完結させたのはめちゃくちゃ偉い

めっちゃ上から目線だが、ぐだる展開もないし変に引き延ばさないで終わらせたのはめちゃくちゃ偉いと思う。赤ちゃん無惨がAKIRAの鉄雄とは比べるまでもなかったり最終ページに作画ミスがあったり*2するのは些細なことであって人気絶頂のさなかにあってしっかりボスまで倒して完結というのは他のぐだってる長期連載作品には見習ってほしいもんである。

もっと雑でいいのかもしれない

色々批判めいたことを言ったが、アラを探せば出てくるのは仕方ないだろう。逆に今後創作をしようという人にとってはある意味勇気をもらえることかもしれない。一度書いてしまったことに捕らわれることなく適度なご都合主義を織り交ぜても人気作品になれないわけではないし、初めから完璧を目指さなくてもなんとかなるという好例と言えるだろう。そういった諸々を含めて、鬼滅は名作であると改めて評しておきたい。

小ネタ

「責任から逃げるなアア!!」のコマだけ5chに貼られていたりしたので、てっきり部下に言ってるのかと思って、はー炭次郎って厳しい上司に成長するんやねと思ってたら全然違ってて草

 

*1:137話無惨と耀哉の対話より

*2:左手が使えてしまっている