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台湾人が日本の国籍を取得しても元の中国国籍は日本では自動喪失扱いにならない

前回に続き、増田への批判である。本題に入る前に以下のパスポートについての部分の話をする。

そうですか。では台湾パスポート在留している台湾人を追い出す活動でもすればよろしい。

台湾パスポート在留している台湾人資格はこちら。

  → http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1213367322

 ちゃんと正当な資格があるんだから八つ当たりしても無意味

http://anond.hatelabo.jp/20160907154048

 

増田の「日本は台湾と国交を結んでいないので、台湾国籍というものは認定されない。台湾人は中国国籍をもっていると見なされる。」という主張に対し、上の引用の通り、その理屈では台湾のパスポートは無効では?と問うたブコメがついたが、増田の反論は今一つ不明瞭だ。知恵袋を貼って正当な資格と言っているがリンク先は単にビザについて述べているだけでお茶を濁した格好だ。

ではなぜ台湾人は中国国籍扱いなのに台湾製のパスポートで入国できるのか?

それは日本が台湾製のパスポートの有効性を認めているからに他ならない。それは中華民国を国として認めているからではなく、法律上には国交のある国のパスポートのみならず「政令で定める地域の権限のある機関の発行した」パスポートも有効となっているからである。それに台湾のパスポートは該当する。*1

そして入国できるのみならず台湾人の場合はノービザで90日間の滞在が可能だ *2 。中国人にはそれがない。この例だけでも同一国籍扱いなのに別の扱いということがあるということがわかる。*3

 

 増田がいう「日本国籍を取った時点で、自動的に中国国籍を失う。台湾国籍をもっていたとしても、台湾は国とは見なされないので、国籍とは見なされない。」という主張についても、ノービザの例と同様にそうではないことを証拠をあげながら述べる。

 

 まず、直接証拠として、台湾人が帰化する際は中華民国が発行した国籍喪失の許可証書を法務局に提出し、そしてそれが受理されていることが挙げられる。

 

momose.exblog.jp

 上の記事に実際、帰化した人があげている許可書の写真がある("中華民国"の字が見える)*4。もし法務省が中国人民共和国の法の有効性しか認めていないのであれば中国大使館発行のものしか受理しないはずだ。つまり法務局がこの書類を要求し、かつ受理する*5ということは、「中華民国」という機関が台湾に住む人の中国国籍についての権限を持っていることを認めていることになる。もっというと中華民国国籍法第11条「自己の志望により外国の国籍を取得する者は、内政部の許可を得て中華民国の国籍を喪失することができる。ただし、満20歳以上であって、中国法により能力を有する者に限る。」の国籍喪失についての規定が有効であると認めていることに他ならない。ただ、「中華民国の国籍」という部分だけを「中国の国籍」とみなしているということだろう。

また、同時に二重国籍の国籍離脱についても同条項が有効であるとみなすのが妥当だろう。これを裏付ける情報として、蓮舫二重国籍問題を初めに提起した八幡和郎によると、増田のいうような自動喪失説については「事実ではないと、法務省から自民党に連絡があった」ということだ。

agora-web.jp

国籍選択宣言を行った窓口で「国籍離脱手続きをとるべき先は中華民国(台湾)当局」だとの認識で指導を行っており、中華人民共和国国籍法によって、国籍離脱手続きが完了するとは考えていないことは明らかだ。

 

また、状況証拠として共同通信の配信した記事を日刊スポーツが配信していたが、

当初あった自動喪失説の箇所が削除されている。

法務省によると、日本国籍を選んだ時点で中国籍(台湾籍)を喪失したとみなされる。日本は台湾を国家承認しておらず、中国の国籍法にのっとり判断。同法は、中国国外に定住する中国人が外国籍を取得した場合、自動的に中国籍を失うと規定している。

蓮舫代表代行「放棄している」二重国籍を重ねて否定 - 社会 : 日刊スポーツ (google キャッシュ)

※現在の記事。当該箇所がない。

蓮舫代表代行「放棄している」二重国籍を重ねて否定 - 社会 : 日刊スポーツ

 

また以下は私見だが、上であげた法務局の実務や法務省の認識について、本国法の決定の考え方でも同様の見解を導くことができる。

どういうことかというと、本国法というのはざっくりいうと法律上、当事者の所属する国の法律が必要になる時があるとき(婚姻の成立要件や効力、親子間の法律関係、相続など)に使う法律のことを指すのだが、その本国法の対象となりうるものが複数あるときにどれを使うかということを決めるための条項がある。それが以下だ。

第三十八条

1項 当事者が二以上の国籍を有する場合には、その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国があるときはその国の法を、その国籍を有する国のうちに当事 者が常居所を有する国がないときは当事者に最も密接な関係がある国の法を当事者の本国法とする。ただし、その国籍のうちのいずれかが日本の国籍であるとき は、日本法を当事者の本国法とする。

2項 (省略)

3項  当事者が地域により法を異にする国の国籍を有する場合には、その国の規則に従い指定される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある地域の法)を当事者の本国法とする。

法の適用に関する通則法

 ポイントは3項の「地域により法を異にする国」についてである。台湾人については「当事者に最も密接な関係がある地域の法」として中華民国の法が本国法として適用されると考えるのが妥当ということだ。

台湾は該当しないのではという意見があるかもしれないので最高裁の見解が載っている文書を引用しておく。

 最高裁判所事務総局家庭局が1989年の法例改正後に著した書では,次のように概説している *6当事者の本国法の決定は「その法律を制定・公布した国家ないし政府に対する外交上の承認の有無等とは直接は関係しないと解されている」としながら,「国際私法上の解釈として,① 未承認国家ないし政府の法律の適用問題として処理すべきであるとする説,② 地方により法律を異にする国の本国法の決定の問題として法例28条3項を適用して処理すべきであるとする説,③ 重国籍者とみて重国籍者の本国法決定の問題として法例28条1項を適用して処理すべきであるとする説などに分かれている」と紹介し,「いずれの立場によっても,中華人民共和国系の中国人と台湾系の中国人は区別して,それぞれの法律を適用するのが適当であると解されている。朝鮮半島についても,その北部地域においては北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国)の法律が施行されていることは公知の事実であり,中国と同様の取扱いが必要である」と述べて,承認国法に限定すべきとする説を完全には排除せずに法例28条3項若しくは1項説で決定することを紹介している。

http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/07-2/cho.pdf

(リンクと強調は引用者による)

 そして日本に帰化する場合、基本的に能力条件として

 第五条

二 20歳以上で本国法によって行為能力を有すること(能力条件)

法務省:国籍法

が求められている。つまり帰化しようとして人はその人の本国法でちゃんと「大人」であることが求められている。もし当該の本国法の国籍法に年齢条項があれば当然、それも鑑みて行為能力を図ると考えるのが自然だろう。それを無視して、他の地域の国籍法を適用するというのは到底あり得ないだろう。

 

以上、述べたように少なくとも実務においては中華民国国籍法は有効となっている。ただ微妙な問題であるから当局がタテマエとしての見解を発表するかもしれないが、リアルは違うのである。いずれにせよ増田のいうような暴論は現実離れしたものである。

*1:  http://www.mlit.go.jp/common/000988462.pdf

*2: ビザ免除国・地域(短期滞在) | 外務省

*3: また念のため、本当に政府は同一国籍とみなしているのかと疑問に思う人がいるかもしれないので、政府答弁に関する記事を貼っておく

【戸籍問題】大江議員の「質問主意書」に菅直人総理から「答弁書」 | ニュース,戸籍問題,提言 | 日本李登輝友の会 │ 新しい日台交流にあなたの力を!

 

*4:なお記事内で台湾大使館と言っているのは台北経済文化代表処のことだろう

*5: これは自主的に出しているわけではなく法務局の指示に基づくものである

台湾籍の方の書類収集方法 | 帰化許可申請サポート @横浜 藤沢法務局

*6:高裁判所事務総局編『渉外家事事件執務提要(上)』(法曹会,1991年)25頁。