憲法第99条を持ち出して改憲の話をするなというのはかなり無理筋なのでは・・・?

 

首相訓示は「憲法擁護に反する」 野党批判、自民議員も困惑 - 共同通信

日本の首相に行政府の長としての立場と一国会議員としての立場の二重性があるのは自明でしょ。前者のパワーを使って改憲を目指すのはNGだが、後者としての所信を述べるのはなんら問題ないでしょ。二つは両立する。

2018/09/04 12:57

 このブコメを書いた後、議員であっても、首相なのだから(そっちが優勢で)改憲の話はNGみたいな反論はありえるだろうなと思ってしばらく考えていた。

ただ憲法を紐解くと、どうも掲題のような結論になりそうだという感じがしてならない。

以下99条(強調は私)。

第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法尊重し擁護する義務を負ふ。

 なるほど~「尊重し擁護する」べきなんだから国務大臣たる首相は改憲の話はできない・・・ってそうなら国会議員も入ってるから国会議員も改憲の話できないやんけ!となる。それはいくらなんでもおかしい。

 

改憲の自体は99条の前の96条に書かれている。

第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

読んでの通り国会議員が発議するのだから事前に議員が議論するのは避けられまい。そう考えると99条の「尊重し擁護する」とは別に改憲の話をするなという意味ではないと考えるのが自然だろう。これは憲法違反をしないように努力せよとか、はたまた憲法を無視、軽視する外力に抗えみたいな話であって、改憲の話とは別であろう。(だから例えば去年話題になった臨時国会の招集が遅いみたいな話で53条と併せて99条違反だろみたいな話になればそれはわかるのであるが)(また、"前回"の全面改定時のような国家に課せられた法的義務がある時しか発議できないみたいな話をする人はよもやおるまい・・・と信じたいが)

 

だから首相が改憲の話をするのが気に食わない人は例えば99条でなくあくまで行政府の長なんだから三権分立上問題があるという方が筋がいいだろう。ただ首相であっても二元代表制である日本の制度下では当然に議員なのだからその立場としてなしうる職務について言及することがことさら問題になるとも思えない。これまで告示のなかで自衛隊関連法案について一切話したことはないということはないだろうし、それが憲法でも構造は同じだろう。整備するとまでいうのは越権だという批判ももらったが、96条に国民に提案し、承認を得ると書いてある通り、国会議員に発議の主体性が認められてるのであって、改憲の意思を持つこと自体は問題にはならないだろう。ただ、もし改憲するのが責務だとまでいうと語弊があるだろう。しかし首相はあくまで「環境を整える」のが責務と言ったまでであり、その責務の一部が「改憲の発議」ということであれば問題なかろう。

 

また首相の立場としても、法律では政府提出法案があるのだから政府提案改憲というのがあっても殊更に異常なことだとは思わないのだがどうだろうか?(実際、例えばフランスでは政府も改憲を提案できる)もちろん憲法は国家を縛るものであるからその統治機構がその制約を緩めるように動くのは元来、抑制的であるべきだろう。だが、改憲は悪で凝り固まっている人は理解しがたいかもしれないが改憲したい勢は良かれと思ってやっているのである。現状の憲法の一部が国益が国民の幸福への枷になるのであればそれを正そうとするのは自然の流れだ。手続きに問題がなければ合憲であろうし、その過程で問題視される事象があったとしてもそれらの最終判断も統治行為論的に国民に委ねられると考えるのが妥当と思われる(もちろんそれらの事象が公知の上での話だが)

 

最後に改憲反対派の人たちにアドバイスしておきたいが、仮に相手が間違っていても批判の論理はどうでもいいということにはならない。感情的になって論理がおろそかになるのはまったくいただけない。今回批判したような99条を利用した改憲議論批判は逆に立憲主義を馬鹿にし、憲法尊重していないともいえるだろう。まるで、まともに議論すると負けるのではないかと思っているのではないかと穿ってしまうほどに残念な詭弁である。むしろこのエントリのような批判は改憲反対派から出てくるのが本来は好ましいのだろう。正々堂々の議論を望む。

 

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